08

21
アイアムザマン

ちょっと前に健診に行ってきた。

特別健康に執着していてそれに努めているというわけではないが、気がつけば私もいい中年である。カートコバーンだったり芥川龍之介だったりすればもう死んでいる年齢である。
そういうわけで好き好んで不健康になりたいとは思ってないわけであるからして、通知がくれば健診くらい行くわけである。

採血室に入ると、どういうわけか顔を真っ赤にした看護師さんが注射器を持って採血をしている。素人目にも動きがガチガチである。
採血をされてる男にもその緊張が伝播したのか顔がやや赤い。
幸いにも看護師はふたりいる。
よかった、遠目で気がついて。
私は迷わずもう一方の方へ向かおうとする。

すると。
「すいません、向こうお並びください」
とどこからともなく、全てお見通しのような偉そうなヤツのお出ましである。
「なんで?別にこっちでもいいでしょうに」
とちょっとダダをこねる私。
「なぜ?それは順番つかえますから、です」
日本語がなんかおかしいでないか、と突っ込みたいのはやまやまだが、それはこの際置いといてやって、さらに抗う私。
「いえ。ゆっくり待ちます。特別急いでるわけでもありませんし」
私も私でそこそこ必死である。好き好んであんなガチガチに注射を打たれるわけにもいかないのだ。
少し逡巡してまた偉そうなヤツ。
「やっぱりダメです。あなた向こうです」
「なぜです?いいじゃないですかどっちでも」
「ダメ、あなた。ダメ」
これだけ変な日本語シャワーを浴びながら全て流されてることが気に入らないのか、はたまた医師の職責なのか、というか単に性格的なものなのか、どういう了見なのかは知る由もないが、こういうとき最終的に折れるのは寛大な常識人のほうである。
そういうわけで結果的には私はそのガチガチの前に座っている。

するとガチガチが。
「す、すいません」
む?なんで謝る?
それだけで私の体温は1度アップである。
誰だってインターンの時期はある。「いいですよ。ゆっくりやってください」というには私はまだまだ小者である。
「み、みぎ手を」
「右手」
「すいません。右手をグーパーグーパー」
なんだこのもったいつけは?
なんだかどんどん体温が上昇してくるでないか。
ガチガチはしばらく私の腕から血管を探したのち、
「すいません、やっぱり左腕で」
がーっ!! 右じゃダメなのぉ?なんでぇ?
なんやかんや言ってもジェントル・ザ・ジェントルマンである私である。
声にこそ出さないが、その胸中を開いて見せられるなら、ちょっとした盆踊り大会が行われているくらいのお祭り騒ぎである。
要は私の回転数は上がりまくりである。
私が車ならちょっとクラッチをつなげば、今ならアンジョリーナジョリーもほれぼれするようなロケットスタートが実現できるだろう。あれ?分かりにくい?

「あっ」
「はい?」
まだなんかあるのか。
「いえ。ここに打ちます、私」
そういうのって、宣言するのかフツー?
もうどうでもいいや、さぁ早いとこ打ってくれ、早いとここの面倒臭い緊張感から解放されたい。
と気分はシャブ中ばりの心の叫びをお見舞いする。

ところがまだ打たない。
私は顔を上げる。
「どうかしましたか?」
「いえ。あの」
今度はなんだよー。
「顔が近いっていうか」
「顔?」
おっといかんいかん。
どうにも針が入る瞬間を見ないと気がすまない私は、この変な空気のなかで気がつけば前のめりになっていたようだ。
注射をする瞬間は顔を背ける人もいるようだが、そんなことをして万々が一、間違えて後頭部に打たれたらどうするんだということを真剣にイメージしてしまう。

ずぶ。

ガチガチの顔を見ると、やっぱり顔が赤い。
私の後ろに並ぶ男はさっきからソワソワしている。
猛烈にこの列に並んだことを後悔しているのだろう。要するに次の生贄君なわけだし。このまま私が後ろにバッタリ倒れでもしたら、発狂すること請け合いであろう。

なんだか出てくる血もチロチロと覇気がない。
これがどうという専門的なことは分からないが、オシッコも血もドバドバ出てくるほうがなんだか男らしい気もする。

ふー。
なんとか問題なく終了じゃねえか。
ふとガチガチの顔を見れば、ひとつの小高い山を登り終えたような顔をしている。考えてみればガチガチしててもナースである。
一昔前ならナースと聞くだけで私の魂のレーダーが盗聴器発見器ばりにピーコンピーコン鳴りまくりだったもんだ。
というわけでというか、どういうわけかは分からんが、今では私もそこそこの大人である。
注射痕をガーゼでもみもみしながら次なる関所へゴーである。

ブライド越しに見える太陽が眩しい。
気分は石原裕次郎である。
呼ばれた診察室へ入る。
扉を閉める直前に声が滑り込んでくる。

「ダメ、あなた。ダメ」
偉そうなヤツの声だ。


とりゃりゃ

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08

18
ミンミンワンワンサマー

まったくあちー日が続いている。
四季があるからこそ生活にもメリハリってもんがついてくるんだろうとはよく思うが、それはそれとしてもここ最近はやってくる季節に対してもう来たのかと思うことが多い。
歳をとったということか。あるいは生活に追われているのか。
あんまりいい現象ではない。

会社のベランダで電話をしていたら、飛んでいるセミの上からカラスが追いついてきて、空中でパクッといきやがった。
あんまり見事な光景を目の当たりにしたので、その次に何を話そうとしていたのかをスコーンと忘れてしまった。
この飽食の時代になにもそんな難易度の高い方法で食す手段を選ぶこともないだろうに。しかもセミなんて。羽茶色いわけだし。

今朝はあんまり窓の外のセミがうるさいのか、バカポンがぶち切れてワンワン吠えていた。ていうか、私の枕元のそばで窓に手をかけて吠えるか、ふつー。
自分とセミはののしりあって対立関係が成立してるからそれはそれで満足かもしれないが、二次的被害者のことはそっちのけではいかんだろうに。
そういうわけでミンミンワンワンギーギーとやかましいではないか。
む?ギーギー?
そう。ギーギーというのは他でもないるん子将軍の歯軋りである。
これについては何も触れません、ハイ。

夏のひとときである。

静かな私の1日にはなにかしら音がある。
私そのものは静かなる紳士なわけであるが、その周辺が品行というかなんというか、ちょいちょいどうしてかやかましい。
幸とか不幸とか、期待とか心配とかは大体同居していることが多い気がして、日によっては、あるいは見方によってはずい分その間取りが偏って見えてしまう気もする。
近しい人間にはそれなりの幸を望むもんである。これが近いからかなんなのか、勝手に心配事も抱えてしまうのである。

そういう夏のひとときになりつつある。


そんなつまんない顔せんでもいいだろうに

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